Webサイトやアプリケーションを運営していると、「アクセスが集中してサーバーが重くなる」「障害が発生してサービスが止まってしまう」といった問題に直面することがあります。こうした課題を解決するための重要な技術が「負荷分散(ロードバランシング)」です。この記事では、負荷分散の基本から具体的な方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。
負荷分散(ロードバランシング)とは?
負荷分散とは、複数のサーバーにアクセス要求を上手に振り分けることで、特定のサーバーだけに負荷が集中しないようにする技術です。
例えば、人気のECサイトでセールが始まると、一度に大量のアクセスが発生します。この時、1台のサーバーだけで全てのアクセスを処理しようとすると、サーバーがパンクしてサイトが見られなくなってしまいます。
そこで、複数のサーバーを用意して、アクセスを分散させることで、快適にサイトを利用できるようになるのです。これが負荷分散の基本的な考え方です。
負荷分散の主なメリット
- 性能向上: 複数のサーバーで処理を分担するため、システム全体の処理能力が向上します
- 可用性向上: 1台のサーバーに障害が発生しても、他のサーバーで処理を継続できるため、サービスが止まりにくくなります
- 拡張性: アクセスが増えたら、サーバーを追加するだけで対応できます
- 保守性: 一部のサーバーをメンテナンスする際も、サービスを止めずに作業できます
負荷分散の方式を分かりやすく解説
負荷分散には様々な方式があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
1. ラウンドロビン方式:順番に振り分ける
最もシンプルな方式です。「1番目のアクセスはサーバーA、2番目はサーバーB、3番目はサーバーC、4番目はまたサーバーA…」というように、順番に振り分けていきます。
メリット: シンプルで実装が簡単
デメリット: サーバーの性能差や、現在の負荷状況を考慮しない
2. 加重ラウンドロビン方式:性能に応じて振り分ける
サーバーの性能に応じて「重み」を設定し、高性能なサーバーにはより多くのアクセスを振り分ける方式です。
例えば、サーバーAが高性能で、サーバーBが標準性能の場合、「A, A, B, A, A, B…」のように、サーバーAに2倍のアクセスを振り分けます。
メリット: サーバーの性能を有効活用できる
デメリット: リアルタイムの負荷状況は考慮されない
3. 最小接続数方式:空いているサーバーに振り分ける
現在の接続数(処理中のリクエスト数)が最も少ないサーバーに新しいアクセスを振り分ける方式です。
メリット: 処理時間が長いリクエストがあっても、バランスよく分散できる
デメリット: 接続数の監視にコストがかかる
4. IPハッシュ方式:同じユーザーは同じサーバーへ
アクセスしてきたユーザーのIPアドレスを元に計算(ハッシュ化)し、その結果に基づいて振り分け先のサーバーを決定する方式です。
メリット: 同じユーザーからのアクセスは常に同じサーバーに振り分けられるため、ログイン状態などを維持しやすい
デメリット: IPアドレスの分布によっては、偏りが生じる可能性がある
5. 最速応答時間方式:最も速いサーバーに振り分ける
各サーバーの応答速度を常に測定し、最も速く応答できるサーバーにアクセスを振り分ける方式です。
メリット: 常に最も高速なサーバーが選ばれるため、ユーザー体験が向上する
デメリット: 応答時間の測定にコストがかかる
6. アダプティブ方式:リアルタイムで最適なサーバーを選ぶ
各サーバーのCPU使用率、メモリ使用量、応答時間などをリアルタイムで監視し、最も余裕のあるサーバーにアクセスを振り分ける方式です。
メリット: 最も効率的で柔軟な負荷分散が可能
デメリット: 監視と判断のコストが高い
負荷分散を実現する装置とソフトウェア
ロードバランサー
負荷分散を専門に行う機器やソフトウェアです。大きく分けて以下の種類があります:
- L4ロードバランサー: IPアドレスとポート番号を見て振り分ける。処理が高速で、主にトラフィックの分散に使われます
- L7ロードバランサー: URLやHTTPヘッダーなどの内容を見て振り分ける。より細かい制御が可能で、例えば「画像へのアクセスはサーバーAへ、動画へのアクセスはサーバーBへ」といった振り分けができます
リバースプロキシ
クライアント(ユーザー)とサーバーの間に立って、リクエストを中継する仕組みです。負荷分散だけでなく、以下の機能も提供します:
- よくアクセスされるコンテンツをキャッシュして高速化
- 外部からの攻撃を防ぐセキュリティ機能
- SSL/TLS暗号化の処理を肩代わり
負荷分散に関連する重要な技術
スケールアウトとスケールアップ
スケールアウト(水平スケーリング): サーバーの台数を増やすことで処理能力を向上させる方法。負荷分散と組み合わせることで、柔軟にシステムを拡張できます。
スケールアップ(垂直スケーリング): サーバー自体の性能(CPU、メモリなど)を強化する方法。シンプルですが、限界があります。
フェイルオーバー:障害時の自動切り替え
稼働中のサーバーに障害が発生した際、自動的に別のサーバーに切り替える仕組みです。サービスの継続性を保つために欠かせない機能です。
ヘルスチェック:サーバーの健康診断
各サーバーが正常に動作しているかを定期的にチェックし、障害が発生しているサーバーには新しいアクセスを振り分けないようにする機能です。
セッション維持(スティッキーセッション)
ショッピングサイトでカートに商品を入れたのに、次のページで消えていた…そんな経験はありませんか?これは、別のサーバーに振り分けられてセッション情報が失われたことが原因かもしれません。
セッション維持機能を使うと、同じユーザーからのアクセスは常に同じサーバーに振り分けられるため、ログイン状態やカートの内容を保持できます。
DSR(Direct Server Return):効率的なデータ転送
通常、ロードバランサーはリクエストもレスポンスも中継します。しかし、動画など大容量のデータを返す場合、ロードバランサーがボトルネックになることがあります。
DSR方式では、リクエストだけをロードバランサー経由で受け取り、レスポンスはサーバーから直接ユーザーに返します。これにより、ロードバランサーの負荷を大幅に軽減できます。
クラウド時代の負荷分散
クラウドサービス(AWS、Azure、Google Cloudなど)では、負荷分散がサービスとして提供されています。
ELB(Elastic Load Balancing)
AWSが提供する負荷分散サービスです。設定するだけで、自動的にトラフィックを複数のサーバー(EC2インスタンス)に分散してくれます。
オートスケーリング
アクセスが増えたら自動的にサーバーを増やし、減ったら減らす機能です。必要な時だけリソースを使うため、コスト効率が高くなります。
例えば、平日の昼間はアクセスが多いので10台のサーバーを稼働させ、深夜は3台に減らすといった運用が自動で行われます。
まとめ:負荷分散は現代のWebサービスに不可欠
負荷分散は、安定したWebサービスを提供するための重要な技術です。以下のポイントを押さえておきましょう:
- 複数のサーバーにアクセスを分散させることで、性能と可用性が向上する
- 様々な負荷分散方式があり、それぞれに適した用途がある
- ロードバランサーやリバースプロキシを使って実現する
- フェイルオーバーやヘルスチェックなどの関連技術も重要
- クラウドサービスを使えば、簡単に高度な負荷分散を導入できる
小規模なサービスであっても、将来の成長を見据えて負荷分散を検討することは重要です。適切な負荷分散戦略を立てることで、ユーザーに快適なサービスを提供し続けることができます。


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