中小企業診断士の「財務・会計」について、体系的な目次とマインドマップを作成しました。学習の全体像を把握し、知識を整理するためにご活用ください。
「会計」アカウンティング
中小企業診断士の「財務・会計」は、大きく「アカウンティング(会計)」と「ファイナンス(財務)」の2つの分野に分かれています。アカウンティングは過去の経営成績を記録・測定するためのルールであり、ファイナンスは未来の企業価値を最大化するための手法です。
この記事では「アカウンティング(会計)」についてまとめます。企業の経営成績や財政状態を、利害関係者(株主、経営者、金融機関など)に報告するための知識分野です。
第1章:会計の基礎
1.1 簿記の基礎:仕訳、勘定、勘定科目、試算表
会社が日々行っている「商品を売った」「給料を払った」という活動(=取引)を、帳簿に記録していく技術が簿記です。
- すべての取引は「原因」と「結果」の2点セットで記録する(=仕訳)
普通のお小遣い帳なら「ランチ代 800円」と書きますよね。
でも会社の簿記では、**「なぜお金が動いたか」**をセットで考えます。【例】サークルで1,000円の会費を現金で集めた
この時、サークルのお金はこう動きます。- (原因)「会費収入」が1,000円増えた
- (結果)「現金」が1,000円増えた
- お金の動きに「タグ付け」する(=勘定科目)
仕訳で使った「現金」や「会費収入」のような名前を「勘定科目」といいます。
これは、インスタのハッシュタグみたいなもの。「#ランチ代」「#交通費」「#バイト代」のように、取引の内容を分類するためのラベルです。会社では「売上」「仕入」「給料」といった公式のタグが決まっています。 - 記録ミスがないか「中間チェック」する(=試算表)
1ヶ月分の仕訳が終わったら、勘定科目ごとに集計して、左側(借方)の合計金額と右側(貸方)の合計金額がピッタリ合うかを確認します。この確認用のチェックシートが「試算表」です。左右の金額が合えば、「とりあえず転記ミスはなさそうだ」と安心できるわけです。
1.2 企業会計原則:会計の基本的なルール
会社がお金について報告するとき、会社ごとにルールがバラバラだと、どの会社が本当に儲かっているのか比較できませんよね。そこで、「みんなこのルールに従って報告しようね」という、会計の世界の公式ルールブックが「企業会計原則」です。
特に大事な7つのルールを、わかりやすく言うとこんな感じです。
- 真実性の原則 → 「ウソはつかないで!」
とにかく、本当のことを正直に報告しましょう、という一番大事なルール。 - 正規の簿記の原則 → 「ちゃんとルール通りに記録して!」
さっきの「仕訳」みたいに、決められた方法で、すべての取引を記録しましょうね、というルール。 - 資本利益区別の原則 → 「親からの仕送り(資本)と、バイト代(利益)は混ぜないで!」
会社を始めるときの元手のお金と、ビジネスで稼いだお金は、ちゃんと区別してね、というルール。ごちゃ混ぜにすると、本当に儲かってるのかわからなくなるからです。 - 明瞭性の原則 → 「誰が見てもわかるように、ハッキリ書いて!」
専門家じゃなくても、会社のことがわかるように、情報を明確に表示しましょう、というルール。 - 継続性の原則 → 「去年のルールを、気分でコロコロ変えないで!」
毎年同じルールで記録しないと、去年に比べて成長したのかどうかが比べられなくなります。だから、正当な理由なくルールを変えちゃダメ、というルール。 - 保守主義の原則 → 「最悪の事態を考えて、慎重にいこう!」
利益が出そうなときは控えめに見積もり、逆に損しそうなときは早めにそれに備えておきましょう、という石橋を叩いて渡るような慎重な考え方です。 - 単一性の原則 → 「銀行用と株主用で、違う成績表を作っちゃダメ!」
誰に見せるためであっても、元となる帳簿は一つだけで、そこから作った同じ内容の成績表を使いましょう、というルール。
1.3 財務諸表の体系:B/S, P/L, C/S, S/Sの関係性
簿記とルールブックに従って作られる、会社の最終的な成績表セットが「財務諸表」です。主に以下の3つが重要で、これらは互いにつながっています。
- B/S(貸借対照表) → 会社の「財産リスト」(ある一日のスナップ写真)
- **「3月31日時点」のように、ある瞬間に、会社が「どんな財産(資産)を、どうやって集めたお金(負債・純資産)で持っているか」**を示す表。
- 資産(左側):現金、商品、建物など、会社が持っているプラスの財産。
- 負債(右側の上):銀行からの借金など、いずれ返さないといけないマイナスの財産。
- 純資産(右側の下):元手や、これまでの儲けの蓄積など、返さなくていい「本当に自分のもの」。
- **「資産 = 負債 + 純資産」**という式が必ず成り立ちます。
- P/L(損益計算書) → 会社の「1年間の通信簿」(ビデオ映像)
- **「4月1日から3月31日まで」のように、一定期間で「どれだけ稼いで(収益)、どれだけお金を使って(費用)、最終的にいくら儲かったか(利益)」**を示す表。
- 皆さんの1年間のバイト代の合計から、食費や交通費を引いて、手元にいくら残ったかを計算するイメージです。
- C/S(キャッシュ・フロー計算書) → 会社の「リアルな財布の中身レポート」
- P/Lで利益が出ていても、それが全部「ツケ(後払い)」だったら、会社の金庫には現金がありません(黒字倒産!)。
- そこで、**「1年間で、会社の現金が『なぜ』『どれだけ』増減したのか」**をリアルに追いかけるのがこの表です。
【超重要!】成績表たちの「つながり」
この3つの表は、こんなふうにつながっています。
- P/LとB/Sのつながり:P/Lで出た1年間の儲け(当期純利益)は、B/Sの「本当に自分のもの」(純資産)にプラスされます。つまり、1年間の頑張りの成果が、財産として積み上がっていくイメージです。
- C/SとB/Sのつながり:C/Sで計算された1年間の現金の増減の結果、B/Sの期末の現金残高が決まります。
第2章:財務諸表(B/S, P/L, C/S)の理解
2.1 貸借対照表(B/S):企業の財政状態(資産、負債、純資産)
B/S(Balance Sheet)は、会社の**「特定の日(例:3月31日)」**の財産状況を示すスナップ写真のようなものです。「この瞬間に、どんな財産を持っていて、そのお金はどこから来たの?」ということを教えてくれます。
B/Sは、左右に分かれたT字の形をしています。
【左側:資産の部】= お金の「使い道」
会社が持っているプラスの財産がすべてここに書かれています。
- 流動資産(すぐ動かせるお金)
- 1年以内に現金化できる、フットワークの軽い資産たちです。
- 例:
- 現金、預金:お財布の中身や銀行口座のお金。
- 売掛金(うりかけきん):「商品を渡したけど、代金は来月もらう約束」のお金。後でもらえる権利。
- 商品・製品:売るために持っている在庫。
- イメージ:普段使いの財布や、すぐに引き出せる普通預金。
- 固定資産(じっくり使う財産)
- 1年以上かけて、会社のビジネスで長く使うための財産です。
- 例:
- 有形固定資産:土地、建物、機械など、目に見えるもの。
- 無形固定資産:ソフトウェア、特許権など、目に見えない権利。
- 投資その他の資産:長期保有する他の会社の株など。
- イメージ:家や車、将来のための投資信託など、すぐには現金化しないもの。
【右側:負債・純資産の部】= お金の「集め方」
左側の資産を買うために、どうやってお金を調達したかを示します。
- 負債の部(他人のお金・いつか返すお金)
- 銀行や取引先から借りている、返済義務のあるお金です。
- 流動負債:1年以内に返さなければならない借金。
- 例: 買掛金(かいかけきん)(商品を仕入れたけど代金は来月払う約束のお金)、短期借入金。
- イメージ:来月支払うクレジットカードの代金。
- 固定負債:返済期限が1年より先である、長期的な借金。
- 例: 長期借入金、社債。
- イメージ:住宅ローンや車のローン。
- 純資産の部(自分のお金・返さなくていいお金)
- 株主が出してくれたお金や、会社が自力で稼いで貯めたお金。まさに「会社の純粋な資産」です。
- 例:
- 資本金:株主が出資してくれた元手。
- 利益剰余金:会社が創業してから今まで稼いできた利益の貯金。
- イメージ:親からの仕送り(元手)と、バイトで稼いだお金の貯金箱。
★B/Sからわかること
会社の**「安全性」や「体力」**がわかります。例えば、**純資産の割合(自己資本比率)**が高いと、「借金が少なくて、自分の力で経営している安定した会社だな」と判断できます。
2.2 損益計算書(P/L):企業の経営成績(収益、費用、利益)
P/L(Profit and Loss Statement)は、**「1年間」**で会社がどれだけ稼ぎ、どれだけ費用を使い、最終的にいくら儲かったのか(または損したのか)を示す「成績表」です。P/Lは、利益が計算されていく「階段」のような構造になっているのがポイントです。
【P/Lの5つの利益ステップ】
- 売上総利益(粗利) = 売上高 – 売上原価
- 売上高:商品やサービスを売って得たお金の総額。
- 売上原価:売った商品の仕入れ代や製造にかかった費用。
- 意味:その商品やサービスが持つ、根本的な稼ぐ力。「このTシャツ、デザインが良いから高く売れるぞ!」という魅力そのものを表します。
- 営業利益 = 売上総利益 – 販管費
- 販管費:商品を売るための活動や会社を管理するための費用(人件費、家賃、広告費など)。
- 意味:「本業で稼いだ利益」。これが一番重要!この利益が出ている会社は、本業がしっかりしている証拠です。
- 経常利益(けいじょうりえき) = 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用
- 営業外:本業「以外」で、経常的に(いつも)発生する収益や費用。
- 収益の例:預金の利息、持っている株からの配当金。
- 費用の例:銀行への借金利息の支払い。
- 意味:本業に加えて、財務活動なども含めた「会社全体の普段の実力」を表す利益。
- 営業外:本業「以外」で、経常的に(いつも)発生する収益や費用。
- 税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 – 特別損失
- 特別:その期だけ特別に発生した、ラッキーな利益やアンラッキーな損失。
- 利益の例:持っていた土地を売ったら、ものすごく高く売れた!
- 損失の例:火事や災害で工場が使えなくなった…。
- 意味:臨時ボーナスや事故なども全部ひっくるめた、税金を払う前の利益。
- 特別:その期だけ特別に発生した、ラッキーな利益やアンラッキーな損失。
- 当期純利益 = 税引前当期純利益 – 法人税など
- 意味:すべての活動の結果、税金も払い終えて、最終的に会社に残った1年間の純粋な儲け。このお金が、B/Sの「利益剰余金(貯金)」に加算されていきます。
2.3 キャッシュ・フロー計算書(C/S):企業の現金の増減(営業・投資・財務CF)
C/S(Cash Flow Statement)は、P/Lの利益とは違う、**「リアルな現金の動き」**を追いかける明細書です。P/Lで利益が出ていても(黒字)、代金が未回収ばかりだと手元に現金がなくなり、倒産(黒字倒産)してしまいます。そうならないか、このC/Sでチェックします。
C/Sは、現金の出入りを3つの活動に分けて表示します。
- 営業キャッシュ・フロー(営業CF)
- 内容:本業のビジネス(商品を売る、材料を仕入れる、給料を払うなど)で、現金がどれだけ増減したか。
- 見方:ここがプラスであることが絶対条件! プラスなら、「本業でちゃんと現金を稼げているね」という健全な状態。マイナスなら、「売上はあるけど、現金回収ができていないかも?」と要注意。
- 投資キャッシュ・フロー(投資CF)
- 内容:将来のために、どんな投資をしたか。工場の建設、機械の購入、他の会社への出資など。
- 見方:成長しようとしている会社は、新しい設備に投資するのでマイナスになることが多いです。「将来のためにちゃんとお金を使っているな」と見ることができます。逆に、資産を売却すればプラスになります。
- 財務キャッシュ・フロー(財務CF)
- 内容:資金調達や返済の動き。銀行からお金を借りたり(プラス)、借金を返済したり(マイナス)、株主から出資を受けたり(プラス)。
- 見方:会社の資金繰りの状況がわかります。
★健全な会社のC/Sのカタチ
一般的に、**「営業CFがプラスで、その稼いだ現金を使って投資CFがマイナスになっている」**のが、成長している健全な会社の姿と言われます。
2.4 会計上の変更および誤謬の訂正
最後に少しマニアックな話。もし、途中で会計ルールを変更したり、過去の記録に間違いが見つかったりしたらどうするのでしょう?
- 会計上の変更:より良い方法が見つかったなどの正当な理由で、会計のルール(商品の評価方法など)を変えること。
- 誤謬(ごびゅう)の訂正:過去の計算ミスなど、単純な間違いを直すこと。
これらは「黙って直す」のではなく、**「こういう理由でルールを変えました」「昔の記録にこんなミスがあったので直しました。その結果、数字はこう変わります」**と、財務諸表の補足説明(=注記)にきちんと書くルールになっています。これによって、成績表を見る人が混乱しないように、透明性を保っているんですね。
これらの書類をセットで見ることで、会社の「体力」「稼ぐ力」「お金の回り方」が立体的に見えてくるのです!
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